机の上には過去問題集、単語帳、赤本。
やるべきことは、誰の目にも明確だった。
それでも彼女のスマートフォンには、もう一つの通知が届いていた。
ミスコンテストのエントリー締切を知らせるリマインドだった。
「今じゃない」
そう言われることは分かっていた。
担任にも、友人にも、きっと家族にも。
だが、通知を消すことができなかった。
挑戦する人にだけ訪れる迷い
彼女は特別目立つ存在ではなかった。
クラスでは真面目で、成績も安定している。
志望校も現実的だと言われていた。
だからこそ、揺れた。
もし失敗したら。
もし受験に影響が出たら。
もし「だから言ったでしょ」と言われたら。
挑戦しなければ、何も失わない。
安全な未来は、そこにあった。
それでも心の奥で、別の声が聞こえていた。
「一度もやらずに、終わっていいの?」
反対のなかにあった、本当の気持ち
勇気を出して家族に話した夜。
返ってきたのは、予想通りの言葉だった。
「今は受験に集中しなさい」
正論だった。
間違っていない。
彼女自身、それが正しいと分かっていた。
けれど同時に、こうも思った。
“今しかできない挑戦もある”
受験は来年でもできるかもしれない。
でも、この年齢、このタイミング、この自分で立てるステージは、もう二度と来ない。
その思いを、うまく説明できなかった。
それでもエントリーした朝
締切当日。
願書を書く手とは違う緊張が、指先にあった。
送信ボタンを押した瞬間、安心よりも先に怖さがきた。
やってしまった。
もう後には戻れない。
その日から彼女は、
受験生でありながら、挑戦者になった。
両立の日々
日中は学校。
放課後は塾。
夜はウォーキングやスピーチの練習。
眠くない日なんてなかった。
「どうしてそこまで?」
自分でも何度も思った。
でも不思議なことに、逃げ出したくはならなかった。
ステージに立つ未来を想像すると、
もう少しだけ頑張ろうと思えた。
ステージ当日
スポットライトを浴びた瞬間、
彼女は初めて気づいた。
ここまで来られたのは、
完璧だったからではない。
怖くても、迷っても、
やめなかったからだ。
結果は、グランプリではなかった。
それでも、拍手の中で彼女は確かに手応えを感じていた。
「私は、自分で選んだ」
挑戦が受験にくれたもの
数日後、面接練習で先生が言った。
「前より、ずっと自分の言葉で話せているね」
あの舞台が、彼女を変えていた。
誰かと比べるためではなく、
自分の思いを、自分で引き受ける強さ。
それは参考書からは学べなかったことだった。
正解は後からついてくる
受験を優先する。
挑戦を優先する。
どちらが正しいかは、簡単には決められない。
でも一つだけ確かなことがある。
選んだ道を、意味のあるものにできるかどうかは、
あとからの自分次第だということ。
彼女はもう知っている。
逃げなかった経験は、
一生、自分を支えてくれる。




















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