カラオケの採点、音程の可視化、発声の自動診断。
歌の世界にも急速にAI技術が入り込み、「上手さ」を数値で示せる時代になった。
正確さ。
安定感。
ミスの少なさ。
機械は、驚くほど精密にそれらを評価する。
しかし、長年ボーカルトレーニングの現場に立ち続けてきた音色兼備の鶴田香耶は、はっきりと言い切る。
「AIの評価と、人の心が動く瞬間は一致しないことが多いんです」
では、人を震わせる声とは何なのか。
数値化できない「揺らぎ」
AIが得意なのは、基準に対する誤差を測ることだ。
ピッチ、リズム、音量、倍音の傾向。どれも重要な要素であることは間違いない。
だが鶴田は、そこに決定的に欠けている視点があると言う。
「人が感動する時って、完璧さよりも“揺らぎ”に反応しているんです」
息の混じり方。
言葉の置き方。
感情が乗ったことで生まれる、ほんのわずかな不安定さ。
それらはミスとして処理されることもあるが、聴き手にとっては「生きている証」になる。
技術の先にあるもの
もちろん、基礎技術は必要だ。
音程が取れなければ、表現以前の問題になる。
しかし鶴田は、一定のラインを越えた後に伸び悩む人ほど、
「正解をなぞる歌」から抜け出せなくなると指摘する。
「上手いのに残らない、という状態ですね」
AIは“正しい歌”を導くことはできる。
けれど、“忘れられない歌”を生むかどうかは別の話だ。
人が本能で反応するポイント
鶴田が現場で重視しているのは、聴き手の身体反応だという。
鳥肌が立つ。
呼吸が止まる。
思わず視線が向く。
こうした変化はデータよりも早く起こる。
「理屈ではなく、先に体が動く。その瞬間を作れるかどうか」
ここに、プロとそれ以外の分岐点があると語る。
それでもAIは必要
興味深いのは、鶴田がAIを否定しているわけではない点だ。
むしろ、基礎を整えるうえでこれほど優秀なツールはないとも話す。
「だからこそ、人間にしかできない領域がよりはっきりしてきた」
便利になった分、最後に問われるのは“その人が鳴っているかどうか”。
声に、生き方や体温が宿っているか。
そこが聴衆に届くかどうかを決める。
機械に真似できない最後の壁
AIがどれほど進化しても、
なぜその人がその一音を出したのかという背景までは背負えない。
経験、葛藤、選択、時間。
歌はそれらの総体として立ち上がる。
「結局、声は人生なんです」
鶴田はそう締めくくった。
技術が進歩するほど、人間の役割は削られるどころか、
むしろ“本質”だけが残っていくのかもしれない。



















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